カサブランカは咲いても
義兄(あに)は実直を絵に描いたような、腕のいい建具職人だった。がっしりとしてこれまで病気らしい病気をしたこともなかったが、いつとはなしに様子が少しずつ変わってきた。それがそんな病気の前兆だとは、思いもかけなかった。
次第に足腰が不自由になり、原因がわからないまま病院を転々とした。やっと筋ジストロフィーだとわかったときには、もう一人では歩けなくなっていた。
時が過ぎていくのに合わせるように、歩行が困難になり車椅子の生活からやがて車椅子にも座っていられなくなった。 最後はベッドに横たわったままになってしまった。 体はどんどん蝕まれていったが、陽気でやさしい兄には変わりはなかった。
7月になって真っ赤なスターゲーザーやピンクの大輪の百合の花が咲いた。花瓶に挿してやると、顔を歪めてうれしそうに笑った。
「もうすぐカサブランカが咲くから。真っ白で大きなカサブランカだよ」
私が話しかけると、もう喋れなくなっていたが、「オー、オー」と喜んでくれた。
それからしばらくして、まるで力尽きるように逝ってしまった。筋ジストロフィーで二ヶ月の命と宣告されてから、二年間頑張った最後だった。
カサブランカが咲いたのは、初七日が過ぎてからだった。私は切ない思いでカサブランカの白い花を切った。
今年もカサブランカの白い花が咲いた。兄は見ているだろうか。(13.07.27)
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