いつかみた風景

銀杏を拾って

この季節になると、思い出すことがあります。
近くの神社の境内に、大きなイチョウの木があります。樹齢はわかりませんが、子供の頃からあるので、もう随分になると思います。
毎年銀杏をたくさんつけ、この時期になると、風に吹かれて落ちてきます。

子供の頃風が強い夜は、翌朝夜が明けるのを待ちかねて、拾いに行ったものです。 草の陰に隠れていたり、とんでもない所に飛ばされていたり・・・。拾っている間にも風に吹かれて「ポトン、ポトン」と落ちてきます。一斉に音のした方へ走り寄ります。仲間と競うように、寒さも忘れて夢中で拾ったものです。
袋一杯に集めた銀杏を持ち帰って、親の驚き喜ぶ顔を見るのが、とても嬉しかった。
銀杏を煎って「茶碗蒸し」に入れます。特にお正月には、なくてはならないものでした。茶碗蒸しの底の方に潜んでいる銀杏を、小さな幸せでも探すかのように・・・。

久しぶりに拾ってきました。
フライパンに蓋をして煎ると、中で「ポン、ポン」と音を立ててはじけます。 それはまるで遠い幼き日から聞こえてくるようです。
今も変わらずイチョウの大木は実をつけるけれど、もうあんなに無心になれることなどないような・・・。
熱い銀杏が口の中で、ほろ苦く広がる頃には、もう冬の囁きが聞こえています。

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