礼拝堂にサックスが流れて
その教会は、車の行き交う道路から10分ほど細い道を入った、林の中にあった。あたりは12月の深い闇に包まれていたが、そこだけぼんやりと、明かりが見えた。小さな教会は、冬の夜にジャズを聴くにはちょっと不似合いなほど、ひっそりとしたたたずまいを見せていた。
会場の礼拝堂の長椅子は、半分ほどうまっていた。中程の通路側に腰を下ろして、スピーカーから流れる、女性ボーカルを聴きながら、高鳴る胸を押さえて待った。7時を少しまわったころに、主催者の挨拶に続きメンバーが紹介された。
リーダーのルーファス・リード(ベース)&アキラ・タナ(ドラムス)に続いて、マーク・ターナー(テナー・サックス)。
雑誌でしか見たことがないあのマーク・ターナーが、なんと私のすぐ横を通り過ぎて行った。細くて背が高く、少年のあどけなささえ残っているような風貌に、どんなジャズを聴かせてくれるのかワクワクした。
メンバーは他にアルト・サックスとピアノを加えた、クインッテット。
ベース&ドラムスのリズムセクッションがリーダーということもあって、かなりアップテンポ中心の構成だった。そのせいか、私が思っていたマーク・ターナーとはちょっと違った印象を受けた。もっとしっとりと歌うプレイをするのかと思っていたが、余分な音を使わずに、ストレートに吹いて、シンプルで説得力のあるプレイだった。
ストイックに黙々と吹く姿は、まるで修行僧を感じさせた。
サックスというと、とかく悦に入って泣きすぎるプレイになりがちだが、そういったところがなく、まっすぐに投げかけられる音は、飾りがなく心の中から溢れたそのままのような気がした。
ベースのルーファス・リードはあのチャーリィ・ミンガスを思わせた。
アキラ・タナは終始にこにことして、とてもジャズメンとは思えなかったが、そのプレイはパワフルだった。
圧巻はガーシュインナンバー。特にピアノのジョン・ステッチ。
こんなすごいピアニストが、日本ではほとんど紹介されていないのだから、ジャズの奥の深さを知る思いだった。
ラストナンバーのエレジーが流れて、ひんやりとした礼拝堂は、ヒップなニューヨークのライブスポットに変わった。(1998年12月18日)
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