飛行機雲
「明日発ちます」電話の向こうで君は黙り込んだ。
「あぁ・・・」ボクに何が言えるだろう。
「手紙待っていたのに・・・」
書けなかったのだ。書かなければと思えば思うほど、丸めた思いはゴミ箱へ行ってしまった。
「体、気をつけて・・・」
つながらない会話が、暗い空を行き交った。
君はいつだって、自分に正直に生きてきた。自分がやりたいようにやってきた。
ボクはといえば、いつも後悔ばかりしていた。
もしあのとき・・・。
そんな仮定法であの日の二人を振り返るのは、君のやさしさを裏切ることになる。
せめて今度だけは、後ろを振り向きたくない。
何かが終わって何かが始まる。ただそれだけのこと。
振り返らずにゲートへ向かう君が見えるようだ。
君が異国に降り立つ頃には、ボクは南の空に、滲んでいく飛行機雲を眺めるだろう。
何かを始めるために、何かを終わらせる。ただそれだけのこと。
切れた電話の向こうで、ジェット機の轟音が消えていった。
(02.03.16) |
|
|
|