トップページへ戻りますいつかみた風景

落ち椿

神社はいつ訪れても空気が張りつめている。玉砂利を踏みしめて歩けば、周りを杉の木立に囲まれた境内は、別世界へと通じる入り口のようだ。

子供の頃は、毎日のように遊びに来ていた。神殿の周りや長く続いた石段、天を突くような大木、かっこうの遊び場だった。すぐ近くに小学校があったので、先生ともよく一緒に来た。みんなで石段に腰を下ろして、弁当を食べた。メガネの先生には、何枚も写真を撮ってもらった。時が過ぎていくように、写真は一枚また一枚と、失ってしまった。

お宮さんの掃除は、子供の仕事だった。
いつも日曜日になると、みんなで落ち葉を掃き集めた。
本殿の横に椿の大きな木がある。春には色鮮やかな紅椿が咲く。朝掃除に来ると、緑の苔の上に、いくつもの椿が赤く広がっている。しーんと張りつめ音のない世界、緑と赤のコントラスト。子供心にも足を踏み込めないような、身の震えを感じた。
「椿は首か落ちるから、不吉な花なんだって」誰かが知ったように言った。「散る時に泣くんだって」

真っ暗な闇に哀しい声をあげて散る椿は、散ってもなお天を見上げているのだろうか。
そんなことを思いながら柏手を打った。
玉砂利を鳴らして帰りながらふと立ち止まると、神殿の陰から誰かに名前を呼ばれたような気がした。振り返れば、玉垣や杉の後ろから、昔の仲間が笑って顔を出しそうな気がする。

子供たちがいなくなった神社には、今も椿が泣きながら落ちるのだろうか。(02.02.17)