ハーモニカ
リー・オスカーのCD「ハーモニックス」は、ジャケットのイラストがとても不思議で魅力的だ。小さな家が疎らに建つ丘が連なった上空、白い綿雲を背景に巨大なハーモニカが浮かんでいる。そのハーモニカにリー・オスカーが腰掛けている。穏やかな表情で手にハーモニカを持って。
いつの時代からハーモニカが、小学校の授業から姿を消したのだろう。私の小学生の頃は、ハーモニカを一生懸命練習した。あの小さな楽器のどこからあんな素敵な音が出るのか、とても不思議だった。それにキラキラ光っているのが、うれしかった。いつもポケットに忍ばせて、学校の行き帰りにもそっと吹いた。メロディにならなくても、音が出るだけで心躍った。
田舎の小学校は、3集落の子供だけが通う小さな学校だった。学年に一クラスしかなく、みんなが兄弟のようだった。
3年生と4年生の時の担任は、日本海の温泉町から赴任されていた若い先生だった。先生といえば年輩の怖い先生というイメージがあった子供たちに、若くはつらつとした先生はとても新鮮だった。近くの神社に出かけては、いっぱい写真を撮ってもらった。手作りの竹スキーを教えてもらったのも先生だった。
4年生の終わりに学校が統合された。それまで慣れ親しんだ学校は廃校になった。
最後の日、校庭に並んで記念写真を撮った。白く時雨れる裏山のように、みんなの気持ちは震え翳っていた。
最後の授業が終わり、いよいよお別れというときに、メガネの先生は黙ってハーモニカを取り出された。みんな先生を見ていた。
先生は、みんなの顔を見回してそっと言われた。
「これが先生のお別れの言葉です」
目をつむってハーモニカを吹かれた。
ふるさと、赤トンボ、里の秋・・・
ハーモニカは、幼い心にはじめての別れの哀しさを教えるように、静かに響き渡った。
私はいつの間にか、ハーモニカが好きではなくなっていた。
ハーモニカは、そんな幼い日を郷愁という旋律に変えて心に響いてくる。哀しく、切なく、いとおしく、懐かしく・・・。やさしく温かく包み込んでくれる。
(02.06.24)
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