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リンゴ飴

昼間の暑さも日が翳ってくると、徐々に姿を消していく。辺りに夕闇が立ちこめる頃には、縁側につるした風鈴が、涼しい風を呼んでくる。
風鈴の音色に耳をすましていると、何故か遠い日が甦ってくる。

7月の終わりには隣の集落で、一番早い川裾神社の夏祭りがあった。
暗くなるのを待ちかねて、近所の仲間と連れだって出かけた。神社に辿り着く頃にはもう暗くなっていて、提灯や夜店の灯りにわくわくした。目当ては夜店だった。

金魚すくい・花火・プラモデル・風船・お面・野球や相撲の人気者のブロマイド・・・
普段目にすることがないものに、心躍った。
みんな親からもらった小遣いで、我先にと買った。私は親に小遣いをもらうことがなかったので、いつも眺めているばかりだった。
金魚すくいも輪投げも、友達がしているのを側で見ているだけだった。
それでも一夜限りの別世界に、心はうきうきしていた。

そんな私を可哀想にと思った祖母が、僅かばかりの小銭をくれた。もちろんたくさん買えるはずがなかったので、何を買うか迷っているというふうに、手にしては元の場所に戻すばかりだった。いつも買うものは決まっていた。
安くて本数がたくさんある線香花火。小銭をくれた祖母のために、スライスした生姜に砂糖をつけた菓子。祖母はこれが大好きだった。

たこ焼きやたい焼きなどの屋台もたくさん出ていた。私はリンゴ飴の前で、見ているのが好きだった。小さなリンゴを、とかしたアメでくるんで、棒の先にさしただけのものだったが、あの真っ赤に光ったリンゴが、特別おいしいもののように思えた。
アセチレン灯に照らされたリンゴ飴を、いつか買おうとずっと思っていた。

夏の宵、縁側に腰を下ろして風鈴の音を聞いていると、昔の仲間が誘いにやってくる気がする。

リンゴ飴
遠いあの日の風鈴
縁日夜店夏祭り
綿菓子金魚リンゴ飴
瞳を閉じればアセチレンのにおい



(02.08.11 「kiyomizumai」から転載)

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