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甦る秋

もう随分昔のことなのに、景色が色づく頃になると、いつも決まって思い出すことがある。
自分で始めた仕事が、思うようにいかなかった時期があった。別に逃げ出せるとは思わなかったけれど、あてもなく車を走らせた。
特に紅葉が見たいと思った訳ではないが、気がついた時には、山陰路を走っていた。 観光をする気分ではなかったので、周りの景色も目に入らなかった。それでもいつしか、大山を目指していた。
なだらかに広がる蒜山高原を過ぎる頃になると、車からの眺めが急変した。 道路が上りになるにつれ、周りには雑木が多くなり、大山の登山道に入ると、そこはまるで別世界だった。
道路の両側は色づいた木々で覆われ、その枝は道の上まで延びていた。車は、紅葉のトンネルの中を走っていく。赤や黄色の光のグラデーションは、まるで異次元への通路のようだった。
ひらひらと舞い散る落ち葉を受けながら車を走らせている内に、自分がどんな思いでここまで来たかということは、頭から消えていた。錦織りなす紅葉に、心の中まで染まってしまった。

さめやらぬ興奮のまま、旅の終わりは日御碕だった。
白い灯台を見上げる岬の果てには、ウミネコの群が、経島の空を覆い尽くすように飛び交っていた。砕ける波に飛ぶウミネコは、空っぽの心に悲しく鳴いていた。
私は、どこにも逃げ出せない行き止まりを、ため息の中に感じながら、岬の崖に佇んだ。海から吹き上げる風は、私を元の生活へと押し戻した。

落ち葉の季節には、燃える木々のトンネルと、ウミネコの鳴き声が甦る。
(02.10.27)

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