村の小学校は、一学年一クラスだけの小さな学校だった。3年生と4年生の時の担任は、大学を出たばかりの若いH先生だった。
学校の裏手には宮谷川を挟んで神社があった。鎮守の森に包まれた境内は、真夏でも涼しく格好の遊び場だった。H先生は神社にみんなを集めて、記念写真をよく撮ってくれた。本殿前の石段は、みんなが並ぶのに丁度よかった。
モノクロの小さな写真は、記憶していないが一学期の終業式の後にでも撮ってもらったものだろうか。真剣な顔をしている者、思い切り笑っている者、恥ずかしそうに微笑んでいる者。それぞれの表情は、何度見ても思わず笑ってしまう。私も珍しく笑っている。何がこんなにおかしかったのだろうと思う程、楽しそうに笑っている。
無邪気でなんの悩みもなく、夢だけを見ているその目は、夏の日差しのように輝いている。自分にもこんな時期があったのだと、なくしたものの多さにため息さえ出てしまう。
あれから何を手に入れただろう。何を失っただろう。捨ててしまった夢が、遠くで色あせている。
それでも何かあると、取り出して眺める。行き詰ったり落ち込んだときは、みんなの笑顔に随分勇気付けられた。
「どうしたんだ。そんな顔して」「そうよ、いつものかっちゃんらしくない」
そんな仲間の声が聞こえる。
「そうだよな。みんなの顔を見たら元気が出てきた」
私はきまってそう答える。
30人のその後の人生はどんなだろう。みんなの夢は叶ったのだろうか。元気でやっているだろうか。今の時代楽しいことばかりのはずはない。みんなもつらいときは、この石段に帰ってきているのだろうか。
(2004.01.04)
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