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穏やかな春の陽ざしが窓越しに差し込んで、サボテンが小さな花を咲かせた。
サボテンは水をやらなくても枯れないからと言って、君が持ってきた。丸い緑の塊は、私を拒むように棘をたくさんつけていた。
大きくなるだろうか花は咲くだろうかと、毎日眺めていたけれど、枯れてしまったんじゃないかと思うくらい、何も変わらなかった。そのうちすっかり忘れてしまっていた。サボテンのことが、二人の話題になることはなくなった。
あれから何度目の冬を越しただろう。ボクたちは変わってしまった。
どちらが悪い訳でもない。君は自分を追い求め、ボクはボクであろうとした。
お互い自分に正直であろうとして、二人の距離が離れていくことに気づかなかっただけのこと。

君がボクの前から姿を消して何度目かの春、サボテンは赤い花をつけた。
枯れてなかったと思わず差し出したボクの手に、サボテンの小さな棘が刺さった。
君はどうしているだろう。もうサボテンのことなど、忘れてしまっただろうか。
ボクの胸がチクリと痛んだ。
(02.04.06)