プリーズ・リクエスト
ジャズベーシストのレイ・ブラウンが亡くなった。
レイ・ブラウンといえばなんといっても、オスカー・ピーターソン・トリオでの「プリーズ・リクエスト」。私がジャズにのめり込むようになった、きっかけのアルバムだった。 ピーターソンが素晴らしいのは言うまでもないが、ビル・エヴァンスのスコット・ラファロと同じように、ピーターソンにはレイ・ブラウンが不可欠だと思った。それはまるで光と影のようだ。
ジャズを聴くようになったのは、20代の前半だった。ジャズの良さもわからず、雰囲気だけで聴いていたのかもしれない。FM放送から流れるジャズを、何ということもなく聴いていた。そんな頃初めて買ったジャズのレコードが「プリーズ・リクエスト」だった。 出張で行った港町。時間つぶしに小さなレコード店に入った。 棚に並べられたレコードをあてもなく繰りながら、何気なく一枚のレコードを手にした。 オスカー・ピーターソン。黒い額に汗を滲ませ演奏していた、テレビの映像を思い出した。
それから毎日毎日そればかり聴いていた。 砕けた夢の欠片を忘れるように、闇雲に仕事だけをしていた私にとって、それはあまりにもキラキラしていた。 カルロス・ジョビンの「コルコヴァード(静かな夜の静かな星)」ではじまる演奏は、まさに夜の静寂に輝く星のように、忘れていたきらめきを私の中に呼び戻してくれた。 ピーターソンの絶妙のピアノタッチに、からみつくようなベースとドラム。スローナンバーもミディアムテンポも、閉ざしていた扉を開いてくれるように、心にしみてきた。
レイ・ブラウンが亡くなった。 あれから私は、砕け散った夢を拾い集められただろうか。
(02.07.06)
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