トップページへ戻ります something

雪うさぎ

 関東地方に雪が降ったと、テレビが伝えていた。12月の雪は久しくなかったとか。そういえば、こちらでも昔のことを思うとあまり降らなくなった。
 子供の頃は、朝目覚めると窓の外の眩しさに、思わず布団から抜け出した。あたり一面真っ白に覆い尽くし、別世界に変えてくれる雪に、無性に心躍った。
 連日降り続いた雪は、徐々に解けていく。解けだした屋根の雪は、時折ドサッという音とともに軒下に落ちる。落ちて固まった雪は、重くて取り除くのに骨が折れる。やっとの思いで除雪した頃に、また落ちてくる。そういうことを一冬繰り返す。
 父は、そんなことを根気よく続けた。幼い私は、父の傍らで雪だるまを作った。
 雪のうさぎも作った。丸く盛っただけの雪の塊も、南天の目をつけると、それなりにうさぎに見えた。南天はまるでそのためというように、真っ赤な実をつけた。
 私はうれしくて飽きることなく熱中していたが、田畑を雪に覆われ農作業ができなかった父は、また別の思いがあったのだろう。
 歳を追うごとに、雪だるまも雪うさぎも作らなくなった。そしていつしか銀世界を見るときめきも、わくわくする胸の高鳴りも、なくしてしまった。
 それでも父は、病に倒れる晩年まで、ずっと雪を除け続けた。

幼いあの日は雪うさぎ
泣いて真っ赤な
南天の目
窓を閉めても舞い込む
想い出

(02.12.11)

トップページへ戻ります something