梅一輪 我が家の庭に、古くから梅の木があった。祖父か父が植えたものだろう。物心ついた頃には、もう花をつけていた。 枝一面というわけではなかったが、それがかえって風情があってよかった。 毎年春を一番に届けてくれていたが、いつの間にか花をつけなくなった。命つきるように枯れてしまった。 父は、そのあとに小さな梅の苗木を植えた。花が咲くようになるのだろうかと思うほど、か細い苗木だった。 梅のことを忘れた頃に、ようやく蕾をつけだした。寝たきりになった父の部屋からは、梅の木は見えなかった。蕾がふくらむ頃には、背負ってでも見せてやろうと思った。 春を待たずに父は逝った。梅の花を見ることもなく。 今年も梅の木は、春を呼ぶように蕾をつけるだろう。 父のいなくなった離れの部屋に、一輪挿してやろう。 (「kiyomizumai」より転載 03.01.23) |