夢を入れるハコ
まるで自ら光を放っているようだ。
あてもなく入った「藤田喬平ガラス美術館」は、幻想の世界への入り口だった。
ほの暗い光に包まれた「青のホール」は、深海の底に佇んでいるように揺らめいていた。
もろく儚いガラスのイメージとは、まるで違うオブジェの数々。大胆で力強く、それでいて繊細なガラスの魔法に、足が止まってしまった。
「飾筥(かざりばこ)」は、一変して光琳を思わせる。
淡い光に浮かび上がる小さなハコが、ガラスで作られていようとは、目を凝らしても信じがたい。
藤田喬平の作り出すハコは、時の狭間からとり出されたように、いくつもの光を塗り込め閉じこめている。ふたを取ると、中から目映いばかりの光があふれ出す。きっとそうに違いない。
あふれ出した光の後には、夢を入れてふたをしよう。時間はその夢を、光へと変えてくれるだろう。またいつかふたを取るときのために。
夢を見ているだろうか。日々の暮らしに追われて、心が泣いていないだろうか。
急ぎすぎて大切なものを、どこかに置き忘れていた。ハコの中の光を、見ようとしなくなっていた。
もしかしたらみちのくの旅は、夢のハコだったのかもしれない。
ハコの中からあふれ出した光に包まれながら、薄明かりの中で夢を拾い集めた。そしてハコの中に夢を入れた。
次にハコを開けるのはいつのことだろう。そんなことを思いながら、大切にハコをしまって旅を終えた。
(03.02.12)
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