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月の光

「ちょっと来てごらん」
「どうしたの?」
妻は洗い物の手を止め縁側へ出てきた。
「まあ・・・きれい」
縁側に腰掛けて空を見上げている私の傍らで、立ちつくした。
「電気消しましょう」
そういって部屋の明かりを消し、並んで腰を下ろした。
暗い空にはまん丸い月が、まるで二人を見つめているように浮かんでいる。 満ちた月の光は、白々と私たちに降りかかり、部屋の中まで届いた。

何か話そうと思うが、言葉が見つからない。
こんなふうにして月を眺めたことなど、あっただろうか。二人だけの暮らしに慣れてしまって、お互い見つめ合うこともなくなったような気がする。
妻はどんな思いで、月を眺めているのだろうか。そんなことを思って虫の音を聞いた。

「ねえ、すすきもう出てるかしらね」
「さあ、どうかなぁ・・・」
「明日見てきて。私、お団子作るわ。そうだわ、明日はここでご飯食べましょう」
「あぁ・・・」
「月にうさぎがいるって、私ずっと思ってた。友達がそんなのいるわけないっていっても、私はいるって思ってた。」
私にはうさぎがいるようには見えなかったが、月が微笑んでいるような気がした。
妻は本当に団子を作るつもりだろうか。それならすすきを採りに行こう。

「静かね」
「あぁ、静かだ」

元々二人だったのだ。また二人に戻るだけだ。それでいいではないかと思った。
頬をかすめる秋の風は、もう冷たかった。それでも心は穏やかだった。
月はいつまでも二人を見ていた。(03.09.21)

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