案山子 東京にいる息子は、必要なこと以外は何も言ってこない。仕送りは毎月郵便局の通帳に入れているが、それ以外のお金はどうしているのかもわからない。足りているとは到底思えないが、バイトをしているという話も聞かない。 入金するときに通帳を見ると、いつも決まって何百円しか残っていない。友達と遊ぶ金はどうしているのか、ちゃんと食べているのか。親が心配しなくても、若い男一人など、どうしてでもやっていけるのかもしれない。 唯一米がなくなったときだけは、電話をしてくる。金がないから外食もままならず、仕方なく米を炊いているのだろう。 そんな息子が、珍しく米が届いたと電話をしてきた。 「稲刈りが終わったんだね。もうそんな頃なのか…。新米すごくおいしかった。」 都会では稲がどんなふうになっているかなんて、想像もできないのだろう。新米を食べながら、田んぼが広がる風景を思い出したのだろうか。 浪人の頃には、そんなことを言ったこともなかったから、それだけ余裕ができたのかもしれない。 そう思いながらも、何かつらいことでもあったのかと出かかった言葉を、やっと飲み込んだ。 ロクなおかずもなく、ご飯だけをもくもくと食べている息子を思いながら、受話器を置いた。 もうすぐ寒い冬が来る。 (03.10.15) 元気でいるか 街には慣れたか 友達出来たか 寂しかないか お金はあるか 今度いつ帰る 山の麓 煙吐いて列車が走る 凩が雑木林を転げ落ちて来る 銀色の毛布つけた田圃にぽつり 置き去られて雪をかぶった 案山子がひとり お前も都会の雪景色の中で 丁度 あの案山子の様に 寂しい思いしてはいないか 体をこわしてはいないか 元気でいるか 街には慣れたか 友達出来たか 寂しかないか お金はあるか 今度いつ帰る (案山子/さだまさし) |