春には風船蔓の種を 友達が亡くなってから始めての春がくる。 寒いのが嫌いで、誰よりも春を待っていた。 知り合った年の秋に、「春になったら蒔くんだよ」といって、風船蔓の種を送ってくれた。黒い種に白い模様が入っていた。ハートの形をした模様が入っていた。 細いつるを伸ばし小さな花が咲き、やがて紙風船のような袋をいくつもつけた。秋にはたくさんの種が採れた。友達の心のような、ハートの模様をつけた種が…。 春に種を蒔き、夏には花が咲き緑の風船をつける。そして秋にはハートの種ができる。人もそうやって繰り返していくのだろう。楽しいことやつらいことを繰り返し、季節を感じ時を刻んでいく。 彼が送ってくれた種は、今私の掌にある。風船蔓が、その形を変えながら繰り返し種を作るように、人も生き続けるのかもしれない。たとえ命が終わっても。 幾つになってもさみしがりやで、子供みたいな男だった。楽しいことが好きで、にぎやかなことが好きだった。笑っている顔しか思い出せない。きっと今でも笑っているだろう。 だからもう悔やむのはやめよう。重いコートを脱ぎ捨てよう。 春には風船蔓の種を蒔こう。好きだったカサブランカの球根も植えよう。 春はもうすぐ来る。友達が待っていた春が、もうすぐ来る。 (04.02.27) |