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備前・夕立受山

久しぶりに海が見たいと思った。
あてなどなかったけれど、電車の窓に顔を押しあて、春の陽ざしを浴びた。
田舎の小さな駅に降り立てば、春の陽の中、旅人になれる。
「海が見たいのですが…」
人の良さそうな駅長さんが、メモ用紙に道順を書いてくれた。
「展望台まで遊歩道がついています。四方に海が見渡せますよ」
夕立受山、名前が気に入った。

途中までは車道がついている。駐車場には、車が数台停まっていた。そこから展望台まで400メートル。踏み固めただけの道が続く。
雑木林を抜けると視界が開け、頂上に着いた。展望台のある公園の端に立つと、瀬戸内海が一望できる。
片上湾はキラキラ揺れて、春の陽にとけ込んでいく。小豆島が遙か彼方に霞んで浮かぶ。筏の間を縫う船も、まるで止まっているように、時はゆっくりと流れていく。 下から昇ってくる風が、汗ばんだ体に心地よくまとわりつく。
昔、人が鳥になりたいと思ったのがよくわかる。両手を広げて飛び立てば、あの空を渡れそうな気がする。

目の前の海はどんなふうに、夕陽を映すのだろう。
こうやって佇めば、やがて暮れゆく日にとけ込めるだろう。
夕陽を見てしまうと、引き返せなくなりそうで、海からの風に押されるように展望台を後にした。
日が陰りだした駅のベンチに座れば、電車が一人だけのホームに入ってくる。電車は疲れた体を揺らし、いつの間にか眠りへと誘う。

夕立受山
もしかしたら夢だったのかもしれない。

(04.03.20)

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