あの頃 「あの頃のこと、忘れていませんよね」 君はまるでそういうように、私の目を見た。 もう随分昔のことだ…。私はきっとそんな顔で笑っただろう。 あの頃と同じように突然やって来た。 缶ビールとピーナッツだけで、延々と喋った。まるで何年分もの話をするかのように。 相変わらず自分勝手で生意気だ。そしてあの一生懸命さも昔のままだ。 私は随分老いぼれてしまった。君を見ていると、つくづくそう思う。 私もあの頃は、君のような目をしていたのだろうか。並んで歩いていたはずなのに、いつの間にか、君の後ろ姿を見送ってしまっていた。 君を乗せた船が流れて行くのを、川岸に立って眺めていたのかもしれない。 濁流にのみ込まれても、岩にぶつかっても、やはり流れの中に入らなければ駄目なんだと、気づかせてくれたような気がする。 何年経っても変わらないものは、あるだろうか。変わらないでいられるだろうか。怠惰な日常に流されながら、それでも自分を見失わないでいられるだろうか。 いつまでも真っ直ぐで、何事からも逃げないで、倒れるたびに立ち上がる。あの頃のように、ひたむきに輝いていられるだろうか。 そんなことを思いながら、日付が変わって帰って行く君を見送った。 |