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100歳の新作

若い頃児童詩を書いていた時期があった。結局日の目は見なかったが、せっせと書いて月刊誌に投稿していた。
「日本児童文学」では毎月投稿作品の中から何編かの作品を選び、著名な児童文学者の講評を載せていた。その中から一編が推薦され、作品が紹介された。

私も一度だけ推薦されたことがあった。その講評は、「堀辰雄やフランス文学の小品を思わせる上品な作品」などと、過分の評価をいただいた。
ところが不運というのは、いつでもあるものだ。その月だけ紙面の都合で作品が紹介されなかった。私はがっかりしたが、推薦されたことには変わりはないので、運がなかったぐらいに思って諦めた。
ところが推薦した先生は、そんなわけにはいかなかったようで、思いの外憤慨して担当を降りてしまった。
そんなことがあったからというわけではないが、いつのまにか投稿しなくなり、創作自体も止めてしまった。

当時よく詩を読んでいた。室生犀星・中原中也・立原道造・谷川俊太郎、そしてまどみちお。
特に谷川俊太郎は何冊も詩集を購入した。まどみちおの詩集も「まめつぶうた」と「てんぷらぴりぴり」を購入し何度も読んだ。
まどみちおの詩は、童謡でよく知られる「ぞうさん」や「やぎさんゆうびん」に代表されるように、動物や昆虫、植物などを歌った詩が多い。
小さなもの弱いものに対するやさしい眼差しにあふれていて、なんともやさしい気持ちになれる。
1909年生まれと言うから、なんと100歳。100歳にして未だに創作活動を続けていることに、驚きと共に感動を覚える。
しかも新しい詩集が出版されるという。そのやさしさ瑞々しさは衰えることはない。

100歳までは到底生きられるとは思わないが、いつまで今の思いを持続することができるだろうか。その道の遠さに目が眩むが、まだまだこれからだという勇気にも似た希望を感じる。
自分の年齢を悲観する必要などない。100歳の朝は、遥かかなたで明けるのを待っているのだから。

「まめつぶうた」に象徴的な一編がある。

うたを うたう とき
わたしは ぬぎすてます

からだを ぬぎすてて
こころ ひとつに なります

こころ ひとつに なって
かるがる とんでいくのです

うたが いきたい ところへ
うたよりも はやく

そして
あとから たどりつく うたを
やさしく むかえてあげるのです

(「うたを うたうとき」まどみちお少年詩集「まめつぶうた」理論社)

(09.07.10)

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