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「おまえが、なぜそこまで、俺を追い込むんだ」
「たしかに俺は、小夏を殺した。だけどおまえには、何もしていない。俺は、おまえに恨まれる覚えは、ないぞ」
さやかの目は、もう坂巻を睨んでおらず、イーゼルを杖がわりについて、しなやかな背筋を、すっと伸ばしていた。
「あんた、バカじゃない?」
「な、なんだと?」
「小夏さんはわたしのともだちよ」
「え・・・」
(樋口有介「ともだち」)

樋口有介の学園ミステリーの大団円。
さやかは、自分の高校の美術教師が、クラスメートの小夏を殺害したことを突き止め、最後の対決をする場面である。
いくら剣道の達人で頭脳明晰でも、普通の女子高生が殺人事件を解決などできないし、まして殺人犯と対決などできるはずがない。しかしそんなことを言っていては、事件は迷宮入りしてしまうので、この際目をつむる。
「小夏さんはわたしのともだちよ」
このセリフがとても好きだから。

時には友達のために、危険を冒すことだってある。命だって張る。100人のお仲間よりも、一人の友の方が大切なときがある。金や地位や名誉なんかよりも、友達のことに比重をおいて生きる人間だっている。
そしてそういうことがわからない奴もいる。そういう友達を持たない奴だっている。そんな奴に言っても仕方ないが、なぜなんだと聞くなら、「友達だから」やはりそう答えるだろう。

背筋をのばして、顎を引き、さやかは颯爽と歩きだした。

そう小説は終わっている。(13.02.23)

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