トップページへ戻ります 街のスケッチ

「うおのめ文学賞エントリー作品一覧」へリンクします「第4回うおのめ文学賞」
(児童文学部門)受賞


おじいさんのけむり その1


 ぼくの机の上に貯金箱(ちょきんばこ) がある。
 500円玉1枚しか入っていないけれど、ぼくの大切なものが入っている。


 なんで貯金箱(ちょきんばこ)なんか作らなあかんのや。貯金(ちょきん)するほどこづかいもらってないのに。

 4年生の夏休みのことだった。
 宿題さえなかったら、夏休みは楽しいのにといつも思う。ドリルは友達のを写せばなんとかなるけれど、困るのは工作だ。4年生は貯金箱(ちょきんばこ)を作ることになっていた。
 きょうは作ろう、あすこそ作ろうと思っているうちに、夏休みは終わりになってしまった。
 お父さんやお母さんにたのんでも、どうせおこられるに決まっている。困っていると、おじいさんが助けてくれた。
「そうか、学校ではそんなこともするのか。そんなら木で作るか?」
「うん、作る作る!」
 ぼくはそばで見ていただけで、作ったのはおじいさんだった。
 おじいさんは、木を切ったりけずったりして、コンコンコンと見ているまに、家の形をした貯金箱(ちょきんばこ)を作ってくれた。屋根の上からお金を入れるようになっていた。
「ようけ(たくさん)()まるように、わしが一番初めに入れてやろう。」
 おじいさんは、そういって500円玉を入れてくれた。コトンといい音がした。
 ぼくはうれしくて、学校でみんなにじまんした。先生にもほめてもらった。
「じょうずに作ってもらったね。お父さんに作ってもらったの?」
「いいえ、おじいさんです。」
「おじいさんは器用なのね。」
「はい、昔大工(だいく)さんやったんです。えらい大工(だいく)さんやったんです。」
 お母さんは「あほやな、そんなのほめてもらったのと違うやないの。」とおこった。
でもおじいさんは、とても喜んでくれた。
「それはよかった。ひろの先生は、ええ先生やのう。」

 ぼくのお父さんは、りっぱな大工(だいく)さんだ。おじいさんは、もっとえらい大工(だいく)さんだったそうだ。だからお父さんは、今でもおじいさんに頭があがらないと、お母さんがいっていた。そういえば、おじいさんに口ごたえしたことがない。離れを建てたときもそうだった。
 お父さんは景気が悪いといいながらも、おじいさんのいうとおり、母屋(おもや)の東側に二階建の離れを建てた。一階はおじいさんとおばあさんの部屋で、二階にぼくの部屋を作ってくれた。
 建前(家を建てるときに、建物の骨組みを作ること)の日は、とてもいい天気だった。お父さんの仕事仲間やしんせきの人が、おおぜい集まった。お父さんもはりきっていたけれど、一番はりきっていたのは、おじいさんだった。自分も仕事をするというのを、あぶないからとおかあさんが止めた。みんなが仕事をするそばで、家ができるのをうれしそうに見ていた。

 あの頃は、おじいさんも元気だった。



トップページへ戻ります 街のスケッチ