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おじいさんのけむり その4


 あくる日学校から帰ると、大阪と京都のおばちゃんが来ていた。
「これでよかったんや。これで・・・。」
 二人ともなんとなくうれしそうだった。
 家の中にさいだん(死んだ人をおまつりするための場所)が作られていて、きれいな花がいっぱい(かざ)ってあった。
「あんたら離れへ行っとき。」
 お母さんに言われて、けんいちとおじいさんの部屋へ行った。ベッドには、もうふとんがなかった。
「お兄ちゃん、おじいちゃんどこへ行ったんや?」
「子供はそんなこと知らんでもええんや。」
「お兄ちゃんかて子供やんか。なあ、どこへいったん?」
「うるさいな!」
 ほんまにうるさいやつや。でもおじいさん、どこへ行ったんやろ。
 ベッドに寝転んで天井(てんじょう)を見ていたら、さみしくなってきた。ベッドはおじいさんのにおいがした。


 そう式の日は、12月とは思えないほどぽかぽかした、暖かい日だった。
「やっぱりええ天気になったね。」
「そらそうや、お父ちゃんやもん。」
 おばちゃんたちは、やっぱりうれしそうだった。
「おやじ、おおぜい来てくれてはるで。」
 お父さんは、さいだんの前に座って、長い間写真のおじいさんに話しかけていた。
 しんせきの人がおおぜいいる母屋には、なんとなくいたくなかったので離れへ行った。おじいさんの部屋は、すっかり片づけられて、ベッドとテレビが残っているだけだった。
 おじいさん毎日天井(てんじょう)見て、なに考えてたんやろ。

 この部屋に来ると、なんとなく落ち着いた。学校でいやなことがあった日も、お母さんにしかられたときも、不思議と気持ちが楽になった。
 ぼくがテレビを見たり本を読んでいるのを、おじいさんは黙って見ているだけだった。
 それでも夕方になると、テレビの天気予報をつけてくれと、きまってぼくの名前を呼んだ。

 おじいさん、あのときもぼくのこと呼んだんか?
 ぼくが帰ってくるのを、暗い部屋で待ってたんか?


「おじいさん・・・。」



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