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おじいさんのけむり その5


「ひろ!」
 おじいさんに呼ばれたのかと思ってドキッとした。
出棺(しゅっかん)(そう式で亡くなった人を送り出すこと)の時間や」
 大阪のおじさんが呼びに来た。
「おじいさんどうなったんや?」
「お(かん)(亡くなった人を納める箱) に入れてあげたんや。これから、かそうばへ行くんや。」
かそうば?かそうばってどこや?

 母屋へ行くとお母さんが、真っ赤な目をしていった。
「あんたがかいたおじいさんの絵、花と一緒にお(かん)に入れてあげたよ。おじいさん、毎日見てはったもんな。」
 えっ、あの絵入れたんか。じょうずにかけたゆうて、初めて先生にほめてもろたのに。まあええわ。おじいさんが気に入ってくれてたんやったら、ええわ。


 お父さんがお礼のあいさつをして、みんなでマイクロバスに乗った。ぼくはおじいさんの写真を持って乗った。けんいちがあとからついてきた。
(げん)さん、ええとこへ行くんやで。」
 そういって手を合わせている人たちに見送られ、バスはゆっくりと走り出した。
「なあ、旅行に行くんか?よそ行きの服着てバスに乗って。」
「あほ!誰がそんなもん行くか。」
「そんならどこへ行くんや?」
 ほんまにどこへ行くんやろ。おじいさんは、どうなるんやろ。

 バスは1時間ほど走って、大きな建物に着いた。
「お兄ちゃん、でっかいなあ!」
「うん。」
「おじいちゃんここで寝るんか?」
 そうやおじいさんは、ここで寝るのやろ。
 ここなら電気がいっぱいついていて明るいから、夜になっても大丈夫(だいじょうぶ)だ。こんなきれいなところだったら、おじいさんもうれしいだろう。
 建物の中は広々として、まるでホテルのロビーみたいだった。奥の部屋へ入ると、部屋の真ん中にお(かん)がぽつんと置いてあった。
「最後のお別れです。」
 みんながお(かん)のまわりに集まると、係の人が小さな声でいわれた。

「お父さん、おじいさんどうなるんや?」
「焼くのや。焼いて骨にするのや。」
 えっ!焼く?骨にする?
 ぼくはびっくりした。思わず大きな声で叫んだ。
「待ってぇ!焼いたらあかん。おじいさん、かわいそうや。」
「ひろし、やめろ!」
 お父さんがとめたけれど、聞くつもりはなかった。
「お母さん、たのむわ。焼かんとって。いうことちゃんと聞くから、宿題もする。けんいちとけんかせえへん。せやからおじいさん焼かんとって。おじいさんかわいそうやないのんか。」
 涙がいっぱい出てきた。お母さんがこわい顔をしている。
 きっとしかられるんや。しかられてもかまへん。

 しかられたっていいと思ったけれど、お母さんはぼくには何も言わずに、お(かん)に近づいた。
「お父さん、ごめんなさい。お父さんをほったらかして、パートに行ったりして・・・。許してくださいね。おばあちゃんに押しつけて、私悪かった。きっとうらんではるでしょうね。」
 お母さんは、泣きながらいった。
「私さえパートに出てなかったら、こんなことになってなかった。私が悪いんです。」

 えらいことになってしもた。
 お母さんは悪いことない。そんなつもりやなかったのに。
 お父さん何とかいうてえな。



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